人目もはばからず

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この世界説明書の序文

毎日毎日
変化が感じられなくとも
否応なしに1を足していかなくてはならない
その延々と続く積み重ねの日々は
決して安泰なものではない
明日は積み重ねてきたものが吹き飛ばされ0になるのかもしれない
それでも生まれて来てから ずっと繰り返してきた
生きている限りはやめることができないからだ
でも 最近思うんだ
なんだか嫌になってきた
やめてしまいたい なんてな
高みに上り詰めて姿を見せなくなった
ウラヤマシイとネタマシイと思ったその他人の顔すら
今はもう だんだんと思い出せなくなってきた

ボクのこの積み重ねの日々は
もしかすると
1を積み上げたあとに訪れる0のためだけにあるのかも知れない
一進一退の繰り返しの先に
いったい何を望めばいいんだ

そんなある日
これまでになく1を順当に積み重ねていたが
触れてもいないのに 目の前で崩れ落ちた
再び0になった
たくさんの1とおまけの様にして上から降ってきた0
これで0は何枚目だろうか
なんて片言の台詞を言ってみたところで
ボクの周りにはだれもいない
散らばった1にこれまで手に入れた残念賞の0をぶちまけてやった
大した音もならない
きっと口にしたところで無味無臭だろう

やめよう
もうやめることにした
明日が来ても ボクはもう起き上がらない
数字の残骸と横並びになって
身動きはとらずに
やがてボク自身も0になるのだろう

ゆっくりと見上げた上空は澄んでいた
こんな遥か彼方に上り詰めていった人たちのことを
ボクはどう思えばいいんだ
偉人の生きざまを誇りに思えばいいのか
彼等は所詮違う人間だったのだと独りごちればいいのか
それとも ボクはボクだと開き直ればいいのか
もしかするとそんなことはもう何度も何度も繰り返したんじゃないだろうか
そして 忘れた頃にまた こうして地に落ちているんだろう

不意に空から声がおりてきた
おいお前
その数字がもしも2進法だったとしたらだ
とんでもない数を表すかもしれないだろ

とんでもない数を仮に表したから それがいったいなんなんだ
とは言い返せなかった

上に積むだけじゃなく 横に次は並べてみろよ

相分かった とは返事できなかった

きっと声の主が伝えたいのはその言葉そのものではない

でもボクにはその真意がつかめない
そんな力が 未だにないんだ
だから
次の日からは 数字を横に並べてみた
意味があるのかどうかは知らない

あぁ そういえば1を積み上げるのも
誰かに教わったからはじめたことだった

確か そんな話だった気がする

 

アホになる修行 横尾忠則言葉集

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