もしかしてだけど、心の声が聞こえてるのか、お前は…

『…ねぇ、先輩』

「…」

『…先輩ってば…ぉぃ…起きてますよね？』

「…（お前なぁ…おいってなんだよ、おぃ…）…で？なに？今さ、お互い布団にそれぞれ入ってるわけだよな？オレな、ちょっと眠りかけてたんだぞ」

『あ、ごめんなさい　ちょっとその…』

「…何が今日は気になって眠れねぇんだよ…さっさと言え、そして寝ろ」

『あ、聞いてくれるんですか？ありがとうございます～でね、先輩、聞いてくださいよ』

「…（ガバッと嫌味に布団を頭に被ってやるよ、それでも言うか？はっ！言えるのか？お前は！）」

『あ、言いますよ。あのですね　色々なジャンルの世界一が掲載されるギネスブックってあるじゃないっすかぁ？』

「…（…嬉しそうに語りだしやがってょ…すかぁ？…じゃねぇょ）」

『あれって値段知ってます？』

「…３３００円…（思わずスマホで検索してしまった…でも布団にもぐってスマホでやり過ごすという攻略法を今更見つけたぜ…これ、案外いけるんじゃないかな）」

『あ、先輩知ってるんですか　じゃぁ次の質問です』

「…（次の質問って…〇ね…今この瞬間、一晩お前は〇んでしまえばいい…）」

『世界一の長寿の人って項目あるじゃないですか』

「あーそーだーなー（もうオレは今すぐ安らかに眠りてーよ）」

『もしもですよ、先輩みたいなおっさんが心臓移植してもらうとするじゃないですか』

「あーそーだーなー（どういう状況下でそうなるんだよ…ってコイツ…今おっさんっていったよな？）」

『で、その移植される心臓がS級暮らすの心臓だとするじゃないですか？
　あ、この暮らすって１stクラスとかのクラスじゃなくて平穏に暮らす、とかの暮らす、ですからね？ちゃんと主張しないと疎い先輩には伝わらないと思うんで、ボクなりの思いやりを込めさせていただきました』

「あーそーだーなー（心臓、暮らす、ランク付け…って…コイツの世界はさっぱりわからん…）」

『で、そのS級暮らすの心臓が例えばまだ１００年以上動くとして、これまでの先輩が生きてきた歳をそこに足したらギネス記録を越えちゃうじゃないですか』

「あーそーだーなー（ははーん…つまり、それでもギネス記録に認定されるのかされないのかってことが気になって眠れないってことだな？）」

『いや、先輩…そういうことじゃないんです。ボクの言いたいことはまだ続きがありますから』

「…え、何がそういうことじゃないって？（オレは思っただけで…口には出してないんだけど？お前、オレの心の声が聞こえるとか？…ってそんなわけないだろ）」

『ギネス記録に認定されるとかされないとか、ボクは興味ありません』

「…お前、もしかして…（心の声は聞こえてないんだよな？前々から変なヤツだとは思ってたけどさ！」

『…』

「…おい、なんだよこの間は…おどかすなよ！？ドキドキするんだけど…何なのお前、凄くこわいんだけど　）」

『…その、先輩…』

「…なっ、なんだよ（あらたまってなんなんだよ、言えよ！…ああ、もう正直に言えよ、お前にはオレの心の声が聞こえるんだな、わかった、降参だ、オレの世間知らずでお粗末な脳裏をこれ以上覗き込んで辱めるのは勘弁してくれ…そして頼む、もうオレをそろそろ楽に…眠らせてくれ…）」

『…先輩は…なにかしらの方法で与えられた寿命よりも長く生き永らえることができるとしたら、それを選択しますか？』

「ふぁ？…え？（お…おどかしやがって…アホくさい話だ…心の声が聞こえるとか…そんな人間いないっての、何をオレ、ビビってたんだろ…恥ずかし…）」

『…先輩…たぶん、近い将来、人類は今のギネス記録なんて簡単に超えていきますよ…これからを生きる人類は皆、そういう選択を迫られるのである…』

「…ある？…何それ、結論みたいな…。って…」

『…』

「…お前……」

『……すー、すーZZZ』

「……（また、オレをおいて先に寝やがって…）」

『……ムニャムニャ…すみ…ません…先輩も…早く…来て…ﾑﾆｬくだ…さい…ZZZ』

「…え？寝言か？
　おい、それ…オレの心の声への返しなのか？
　違うよな？
　難しく考えず…ただの寝言でいいんだよな…？
　あぁっ…だめだ…人の心を読める人間がいるものなのか…なんて気になって…お前のせいでまた眠れやしねぇじゃねぇか…ぅぅ」