人目もはばからず

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しあわせのしょくたく

「先輩、毎日お弁当持参してますけど、やっぱ、嫁さんの手作りなんすか?」
『…(もぐもぐ…)そぉだょ』
「いいっすね」
『そぉ?』
「俺の昼飯なんて、いつもウォーターサーバーから直入れのお湯で作る持参のカップ麺なんで、目の前で展開される愛妻弁当に思わず目がいっちゃいますよ」
『そぉ?』
「えぇ、思わず』
『…(もぐもぐ)そっか』
「…おっと、五分経過、いただきます。(ずずっ…ずずぅ…)」
『時々。ときどきね、キミみたいな、その…』
「(ずずっ…ずずー…)え?オレみたいな?」
『…なんというか、体に悪そうなものを猛烈に食べたくなるんだ…』
「ブッ!!…え?体に悪そうとか…なんすかそれ!?」
『…嫁にさ、健康管理されててさ、喰うもの全てがきめられてるんだよね…』
「(ずーずずぅっ)そうなんすか?なんか、大変っすね…」
『…(もぐぉぐっ)旨いよ。このシンプルな卵焼きなんて最高だしさ』
「先輩がうらやましいっす。(あ、もう麺ないや)」
『塩分、動脈硬化、脂身、カロリー、血圧、血栓、内臓脂肪…そんな言葉を毎朝、毎晩耳にする…そんな家庭を…キミはどう思う?』
「ふぇ?…えっと…いやぁ…嫁さんに愛されているんじゃないかと…」
『…そうか…』
「…あ、…はぃ」
『…キミ、オレの願いを聞いてくれないか?』
「は?願い…ですか…?」
『あぁ…その、キミの食べていた「どん兵衛」の関西味のツユを一口…一口だけでもすすらせてもらえないだろうか…』
「ツユ…っすか?」
『キミ…その関西味どん兵衛はどうやって手に入れた?』
「…メルカリっす…」
『なっ!?そんなことまでして…いや。そうだ、そうだろ!?』
「…まぁ、ここらでは関東味っすから…」
『頼む。この通りだ…!』
「先輩…!頭、あげてください!」
『…いや、キミがその器をこっちに差し出すまでは…何としても…』
「…わかりました。わかりましたから…」
『…!ありがとう…』
「…では…どうぞ…」
『…(ずずー…ずずぅ…ずずー)』
「…先輩…一口なんじゃ…」
『…(ずずー…げxほっ…ずxずぅー)』
「先輩…全部あげますから、ゆっくり味わってください…」
『ぉお…キミ…ありがとう…(ずっ…ずー)』
「先輩……結婚生活って…楽しいっすか…?」
『…(じゅるっ…ずー)』
「…あ、なんかすんません、ごめんなさい」
『…』
「…」
『時おり、こうやって高濃度の味覚を体に迎え入れる時…確かな高揚感を感じる…だが…それが幸せなのか悲しみなのか…わからん…』
「…そうっすか…俺…ペヤングも合間でお湯入れたんで、それ、今から喰いますね」
『…なっ!?』
「うらやましいっすか?」
『…あぁ、うらやま…」
「…うらやま?…しいっすか?」
『…ぅん…』
「…そうっすか…」
『…』
「…先輩、ペヤング、一口喰います?」
『…ぅん』
「一口っすよ?」
『…ぅん、ありがと』

 

ペヤング 塩ガーリックやきそば 114g×18個

ペヤング 塩ガーリックやきそば 114g×18個